古舘寛治とgiftedたち

ゲスト:横浜聡子さん

ゲスト:横浜聡子さん

「“破綻”を乗り越えようとして頑張っている作品が好き」

公開日:2017.6.14

古舘寛治がgifted(才人)たちと語らう対談シリーズも、いよいよ最終回。8人目のゲストとして登場してくれたのは、映画監督の横浜聡子さんだ。『ジャーマン+雨』『ウルトラミラクルラブストーリー』『俳優 亀岡拓次』といった、生命感に満ちた作品づくりで知られる横浜さん。二人の言葉は、シリーズ最終回らしく、人がものをつくることに込める“願い”をめぐって紡がれていった。

横浜

でもそうやって、クリエイションのことを必死になって考えている古舘さんのような俳優さんが企画を立ち上げることというのは、分業体制が普通とされている現場において、じっくりお互いが話す機会を回復させることにつながるかもしれませんね。もちろん撮影時間は限られてますし、誰もそうした機会を望んでいないのかもしれませんが……私自身は今後は可能な限りコミュニケーションを密にとっていきたいと思いますし、古舘さんが歩み出そうとされているその一歩には、とても共感しているんです。

古舘

新しいことというのは、なかなか始められないですよね。経験したことがないから誰もやらないだけで、絶対にやったほうがいいと、僕は思うんですけれど。現場での監督の立ち位置の話が出ましたが、僕、「ダメ出し」っていう言葉が嫌いで……サンプルでも「フィードバック」にしてもらったくらいなんです(笑)。
日本だと「ダメだ」「違う」の繰り返しで何度も演技させられることが多いですが、たとえば映画『沈黙‐サイレンス‐』に出た日本の俳優さんたちがいうには、マーティン・スコセッシ監督は演技が一回終わると、「素晴らしい! 最高だ!」と褒めた後に、「じゃあ、次はこうやってみないか?」と延々撮らされるらしい(笑)。でも、そうやって褒めて認めてくれるのは、俳優にとっては本当にありがたい。演技というのはいわば「おままごと」、遊びなんです。怒られておままごとができるわけがない。

横浜

監督がNGの理由をいわないで「ハイもう一回」を繰り返す、というのは昔からよく聞く話ですよね。それはひとつの方法論なんでしょうし、監督が王様っぽくふるまうことが必要とされる映画界の空気も感じるんですが、私はそれができないんです。演出するときも、言葉でうまく伝えられないときは、潔く諦めます(笑)。というより、自分のこだわりなんて大したことがないと思い込む。そして実際、編集段階で映像を観ていると、本当にそうなんですよ。私は何をこだわっていたんだ、バカだなって思うんです。

横浜聡子さん 画像

古舘

ある映画監督で、普段は優しいのに、現場だとわざとものすごく怒る、という話を聞いたことがあります。日本の映画界では伝統的に、そうした権力というものが大事だという意識が根付いてきたんでしょうね。でも僕はそれは絶対に違うと思いますし、横浜さんのやり方が正しいと感じます。

横浜

ありがとうございます、よかった……。

古舘

最近は世代が変わってきて、深田監督や沖田修一監督は怒鳴りませんよね。ほんわかしていて、みんなにいじられるような監督が増えてきた(笑)。それはとてもいいことだと思います。そこで聞きたいんですが、横浜さんがそうした現場で目指す映画というのは、どのようなものなんでしょうか。

横浜

ものをつくる人って、俳優でも監督でも、既に決まっていることをやるだけでなく、本当にこれはどうなるかわからない……という手探りのなかで作品をつくっていくことがありますよね。脚本を書いているときも、一応プロットはあるけど、どこにどう転ぶかわからないことがある。そこでみな、新たな発見をしたり、手掛かりを見つけたりしながら、ものをつくっていくわけですよね。
一方でお客さんは、完成されたものを求めます。矛盾があるとか、つじつまがあっていないという作品をわざわざ求めたりはしない。ですから、つくっている側としては、ちょっとした矛盾やほころびを、なんとか人に見せられるものにまで仕上げていこうと技を駆使して頑張ります。そして、私はその頑張っている様が見える映画が好きなんですよ。

古舘

なるほど、面白い!

横浜

完璧じゃないっていうか。あ、手探りでやっているな、っていうのがわかる作品が好きですね。

古舘

その点ではサンプルってすごいと思います。毎回、完成感はありませんから(笑)。

横浜

以前に『自慢の息子』を拝見したんですが、俳優の皆さんも、その場その場で次に何が起こるのかわからない、という感じが伝わってきて。すごく面白かったです!

古舘

そうですか、ありがたい感想ですね。

横浜

トリュフォーの映画も、同じような意味で好きなんですよ。言うまでもなく能力が高い映画監督ですが、作品を観ていると、あれ、ちょっとここはあんまりうまくいかなかったんだろうな……というところをがんばって補おうとしている様子が見えて、あんなすごい監督なのに頑張りの痕跡が垣間見えるのが、私は大好きです(笑)。

古舘

そうか、考えたことがなかったですね。僕個人としてはどうしても、やっぱり完璧を目指したいとか思っちゃってたな……。

横浜

もちろん、どんな人でも、そのときはできることを最大限やろうとするんだけど、やっぱりやっていくうちに破綻しちゃうのが自然だと思うんです。そして結局、ものづくりってその破綻をどう乗り越えていくか、ということのような気がするんです。最初からここを目指してこれをやる、と決まっていても、そこにたどり着けないことも薄らわかっている。そうして破綻したときに、どう乗り越えるか、ということなのかしら、などと思っています。

古舘

いやあ、とても刺激を受けました。『ブリッジ』、ぜひ観に来てください!

横浜

私もいいことばかり聞けてよかった、本番の舞台が楽しみです!

横浜聡子さん 画像

構成・文:宮田文久