古舘寛治とgiftedたち

ゲスト:井上剛さん(NHK)

ゲスト:井上剛さん(NHK)

「虚実のあいだで自由に、“境界”をずらしたい」

公開日:2017.6.13

『あまちゃん』『64(ロクヨン)』『その街のこども』など、手掛けた話題作は数しれず。テレビディレクター・井上剛さんは、NHKドラマを象徴するヒットメーカーでありながら、時代と真摯に向き合い、倫理的な問いかけも織り込まれた作品群を世に送り出し、支持を集めてきた。フィクションとドキュメンタリーの間で“自由”になる表現をめぐって展開する、古舘の対談シリーズ第7弾!

古舘

それはよくいわれますね。

井上

真っ当だからこそ、それを突き進めていくと違うところへたどり着いてしまうのではないかと感じさせられるお芝居といいますか。ですから、拝見していて、すごく面白いんです。

古舘

嬉しいです。でもあえていうと、人間なんていいところも悪いところも、みんな併せ持っているわけじゃないですか。なぜフィクションになると、お客さんはいい人か悪いひとか、ハッキリわかりたがるのか不思議なんですよ。日本だとそういうふうにフィクションを観させられてきたんでしょうか。

井上

どうなんでしょう。でもだからこそ、両方併せ持った演技をされると、こっちはすごくドキドキするんですかね?普通は悪人なら悪人で安定するんですけど、古舘さんは安定しないんですよね。宮藤官九郎さんの『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(2016年)でもそうでしたが、画面に古舘さんが映ったときに、解釈が一瞬ではしづらい。でも一瞬で笑えて。不思議です。

古舘

そう評価してくださる井上さんの演出は、役者としてはすごくやりやすかったんですよね。『64(ロクヨン)』では基本的にカレーを食べているだけだったんですけど(笑)、それでもすごく自由にやらせてもらえて。自分のやりたい表現をやったらOKが出るような……。テレビの現場って、時間がない場合がほとんどですよね。だからだとも思うんですが、カットも撮る前からバッチリ決まっていて、役者の動きも振付をしたがるディレクターの方が多い気がするんです。そうしたなかで、井上さんの演出は新鮮だったんですよね。

井上

なるほど。

古舘

俳優としては、リアルな芝居を一生懸命追究して、見つけた演技をそのまま撮ってもらうのが、正直いうと楽しいんです。そしてまさに井上さんは、そうした演出をしてくださった。だからこそ、今回このようにお呼びしている次第なんです。

井上剛さん(NHK) 画像

井上

そうやって自由に演技してくださった演技を編集段階で観ていても、やっぱり古舘さんの芝居は印象に残るんですよね。編集していても面白いところや改めて発見がある箇所がいっぱいある。そうした演技のやり方は、ニューヨークに留学されていたときに、向こうで学んできた部分が大きいのでしょうか。

古舘

はい、それは大きいと思います。いかに自分が“主観”になるか、演じるその人間の“主観”でいられるか、ということを徹底的に教えられるんです。たとえば、ひとつのシーンの発表が終わった後、先生とやりとりをするとしますよね。今回のサンプル『ブリッジ』ではジョージという役をやるんですが、「ジョージの気持ちはこうだから……」などと先生に説明をすると怒られるわけです。先生は「ジョージじゃなくて、あなたでしょう?」といってくる。「自分はこうだから、こういう行動をしたんだ」というふうにいいなさい、と。

井上

だからといって、単純に役と同一化しているというのとは、古舘さんの演技はまったく違いますよね。演出していても、その役の人間とやっているというよりも、古舘さん自身とやりとりをしている感触がある。そこが面白いんだと思いますし、『淵に立つ』のような、独特な感触を生んでいるのではないでしょうか。

古舘

ニューヨークで演技を学ぶなかで、役をかぶって何かのふりをするより、何もしないでいたほうが生々しいキャラクターが立ち上がっていって、絶対面白い、と気づいた瞬間があったんですよね。

井上

自分でドラマを演出していても、つくづく不思議な世界だな、と思うことがあります。だって、たとえば30分しか時間がない、そこでたとえば古舘さんと初めて会ったとする。それは僕とは“別の人生”をおくる人が現れたということなんですが、その人といきなりジョージについて話し合うわけなんですよね(笑)。こんなシチュエーションで、こんな不思議なことに時間をかけるなんて、日常ではありえない。

古舘

面白いですよねえ。そこでぜひ井上さんとお話したいのは、ドラマ『その街のこども』(2010年、同年劇場公開)のことなんです。阪神淡路大震災から15年経った神戸を描いた作品ですが、あのフィクションをリアルに撮るのはとても難しかったと思うんです。にもかかわらず出来上がった作品は、本当に素晴らしかった。個人的にも、俳優として参加したいと思わせられるような、生の人間をきちんと撮ろうとしていらしたのが印象的でした。

井上

あれはまさに、ドキュメンタリーのように撮っているんですよね。主演の森山未來さんと佐藤江梨子さんにも、もちろん演じてはいるんですが、それでも「演じないで」という言い方を、特に撮影初期はしていたような気がします。「演じる/演じない」の薄い皮膜のようなところを、どうやっていったりきたりするのか、ということに腐心していた記憶がありますね。

古舘

難しい挑戦ですよね。

構成・文:宮田文久
写真:高野由香里