古舘寛治とgiftedたち

ゲスト:海野敦さん

ゲスト:海野敦さん

「助監督として、“みんなが気持ちいい現場”をつくりたい」

公開日:2017.6.11

瀬々敬久、黒沢清、熊切和嘉、沖田修一ら、映画界のそうそうたる名手たちに愛される助監督がいる。それが今回のゲスト、海野敦さん。古舘寛治が才人(gifted)たちと語るシリーズ第5弾は、現代日本映画の“現場”をつぶさに見てきた、百戦錬磨の映画人との対話。謎に秘められた助監督という仕事にまつわる対話から見えてくるのは「クリエーションをすることとは何ぞや」という問いに対する、リアリティーあふれるヒントだ。これを読めば、あなたの今後の映画鑑賞が変わるかもしれない……!?

古舘

映画美学校時代も監督になろうと考えていらして、今もそうだと思います。逆にいうと助監督というのは、なろうと志してなるより、どんどん頼まれて仕事をしているなかでなっていくようなものですよね。

海野

たしかにそうですね。プロとアマチュアの境界が曖昧というか…。大学時代も映画美学校時代も、職業的な助監督になるということはまったくイメージしていなかった。

古舘

海野さんは今年で、助監督を始めてから何年経ちますか。

海野

商業映画に初めて助監督として付いたのは、瀬々敬久監督の『サンクチュアリ』(2005年公開)。2003年に撮影された映画なので、助監督歴は約14年という感じですね。それまでも、映画美学校時代に仲間でつくった映画の現場に入ることはあったし、その後もVシネマの現場には2~3本は入っていたんですが、きちんと商業映画の現場に入ったというのは瀬々さんのところが初めてですね。

古舘

その後も多くの現場でご活躍ですが、僕も何本もご一緒させていただいて。

海野

先ほども話が出た『南極料理人』(2009年)と『キツツキと雨』(2012年)の間にも、日向朝子監督の『フォーゴットン・ドリームス』(2011年)でもご一緒しましたね。本当は瀬々監督の『ヘヴンズ ストーリー』(2010年)も一緒にやるはずだったのですが、僕がたまたまスケジュールが合わず、古舘さんが出たパートの現場にはいなくて。

古舘 海野 画像

古舘

それから藤田容介監督の『福福荘の福ちゃん』(2014年)ですね。

海野

そう考えると古舘さんとの現場は多いですね。僕が仕事したことのある俳優さんランキング、絶対に上位に入っていますよ。

古舘

これは今日ぜひ聞きたいと思っていたんですが、海野さんの現場って、とにもかくにも“安心”するんですよ。いつもそうやって、ニコニコというか、ニヤニヤしていらっしゃるじゃないですか(笑)。穏やかに、人に優しくなる努力をしているという感じでもなく、ごく自然体として、そうしたオーラを出していらっしゃるんですよね。

海野

ああ、なんでしょうね……基本的に、監督や役者さんが気持ちよく仕事をしている現場はいい現場だ、と思っているんです。もっと喧々諤々とやるのがいいんだという人もいるのでしょうが、僕の場合はスケジュールを組む場合でも、限られた条件の中で監督と役者さんがなるべく気持ちよくやれるように考えます。順番もできるだけグチャグチャで撮らずに、ある程度は肝になってくるシーンだったら順撮りできるように、とか。

古舘

そうした努力をしてくださっているおかげで、現場が心地いいんですね。海野さんはいつだって笑顔で、怒っているところなんてほとんど見たことがないですもん(笑)。

海野

はい、あまり怒鳴るようなことはないですね……あ、でもこれは沖田さん自身がネタにしていらっしゃいますが、『南極料理人』の現場では、沖田監督を怒ったことがあります(笑)。

古舘

そんなことありましたっけ!? いや、冒頭でもいいましたが、自分のことでいっぱいいっぱいだったんですよ……(笑)。

海野

伊勢海老のエビフライのシーンって覚えていますか?

古舘

ああ! はいはい、思い出しました。あのデカいエビフライのシーンですね。

海野

ある意味ギャグとしてデカいエビフライを食べるシーンで、8人の役者さんがいるのに対して一尾ずつエビフライがあるんですが、あの伊勢海老って高いんです。一尾が高額なので、監督には三回戦までしかできませんよ、と伝えていたんです。でも沖田さんも初長編監督作品だから、テストでうまく固まらないうちに本番にいってしまって、案の定失敗したという。思わず「監督、ちゃんとテストで固めて下さいよー!」って言っちゃって。クランクアップの後、出演していたきたろうさんに「助監督に怒られている監督を久々に見ましたわ」って言われちゃいました(笑)。

古舘

まあそれも現場を思っているからこそ、ということで(笑)。最後に、長らく日本映画界にいて、もっとこうなればいいのに、と思うことはありますか。

海野

うーん、映画の現場で強烈な“二極化”が起こっていて。原作があって多大な広告費用もかけられる映画と、ものすごい低予算の映画、といったような……その間の“中間”がないんですよね。僕が日本映画を面白いかもと観始めていたときというのは、今思えば、先ほどお話した黒沢さんや青山さんの作品が、予算的にもちょうど“中間”くらいの映画だったんですよ。メジャー映画でも超低予算映画でもないという。そのころはそうした映画がけっこうあって、そこが面白いなと思っていたんです。

古舘

シネコンもあんなにスクリーンがあるんだから、マイナーな作品も流せばいいのにと思うんですが、なかなか……。

海野

20年前ならミニシアターでかかっていたような映画が、今は単館系の映画館が少ないからシネコンでかかることもあるんですよ。でも上映回数がすごく少なくて、あっという間に終わっちゃうことも多くて。

古舘

ああ、そうか。こんな時間に観に行けないよ、みたいな上映もありますもんね。

海野

映画館もお客さんの状況が変わって、今はまさに“中間”くらいの映画が商売として一番難しくて、回収がしづらいと思うんですよね。昔だったら映画監督も、本当はそのくらいの規模でデビューして、少しずつ階段を上がっていく、みたいなこともできたんですが……僕らがちょうど映画を面白いなと思っていた頃の、“中間”の企画の映画がすごくつくりづらい状況にはなってきているのではないでしょうか。 ただそれでも、その映画ごとの内容にあった“サイズ感”を、もっと探れないかと思ってはいます。別にみんながみんな、シネコンにかかるメジャー映画を撮ったらゴールというわけでもないですし、それを目指していない人もたくさんいる。別に良し悪しの問題ではなく、監督としてのゴールがメジャー映画ではないとは思うので、作品ごとに相応しいサイズ感や興行の仕方があるんじゃないのかな、とは感じています。

古舘

なるほど、今日はありがとうございました、よろしければ『ブリッジ』も観に来てください。サンプルは、以前に『自慢の息子』(2010年)をご覧いただいて。

海野

はい、『ブリッジ』はぜひ観てみたいです。ただ申し訳ないんですが、演劇の観方がまだちょっとよく分からなくて。舞台上にいる古舘さんに勝手にズームで寄っちゃって、古舘さんひとりに集中しちゃうんですよ(笑)。

古舘

そうか、映画のようにフレームがないから、そういう観方もあるんですね。面白い(笑)。でも、舞台はそれこそどこを観てもいいわけですから、自由にご覧いただければ。劇場でお待ちしています。

構成・文:宮田文久
写真:高野由香里