古舘寛治とgiftedたち

ゲスト:深田晃司さん

ゲスト:深田晃司さん

「『淵に立つ』のようなオリジナルのつくり方は、演劇から学んだ」

公開日:2017.6.10

映画『淵に立つ』コンビ、再び! 古舘寛治が才人(gifted)と語る対談シリーズ第四弾は、映画監督・深田晃司さんがゲスト。青年団では古舘と同じ釜の飯を食い、その後もほとんどのサンプル作品を観続けてきている深田さん。深田作品の多くに出演している古舘との間で、オリジナルなものづくりを追求してきた二人ならではの対話が繰り広げられた。

深田

『さようなら』は11日間くらいでしたね。

古舘

そうか、それで昨年の『淵に立つ』が20日間、と。『歓待』の頃に比べたら余裕はあったけど、それでも8年にわたる時間軸の脚本でボリュームもあったし、本当に大変だった。それがまさか、カンヌに行って、賞まで獲るとは思わなかった……!(笑) その甲斐もあって、今後撮る作品は目白押しだとは思うんですが、僕個人としては深田君に少しでも余裕が与えられるようになればいいなと願っています。

深田

その辺は、コツコツと規模を大きくしていこうとは思っているんです。実際、いろんな道がありますし、予算を膨らますだけなら近道もあるんですよ。有名な原作をつかうとか、大きな企画に乗っかるとか。ただこれが難しいなと思うのは、よくもっと若手の監督や俳優さんに聞かれるんですけれども、自分のやりたいことと、やれる企画や仕事が違う、どうしたらいいんだろうか、と。
今の自分のやりたいこととは別に、原作付きの大きな企画で知名度を上げたり興行収入の成績を残したりして、その上で自分のやりたいことをやればいいという考え方もあるのでしょうが、実際はそうはいかないのではないかなと。結局その次にも同じような作品を求められてしまうわけで。
僕はそうではなくて、自分のオリジナルの企画でコツコツ規模を大きくしていった方が、10年後は撮りやすくなってるだろうな、と思っています。そして、それを学んだのは演劇の劇団からなんです。

古舘

それはどういうことなんでしょうか。

深田

オリザさんから、おそらく新人研修の時に聞いて「すごい!」と思った話がありまして。1982年に青年団が発足して、いわゆる小劇場ブームのなかでお芝居をやっていたんだけれども、90年代に入っていわゆる「現代口語演劇」というスタイルを確立し始め、ボソボソ喋る、山場をつくらないでいきなり終わる、お客さんに平気で背中を向けて喋る、といったことをやり始めたら、一気にお客さんが減っていった、と(笑)。
そこで話し合いの場がもたれたのだけど、オリザさんや初期からのメンバーが話したのは、「新しいことをやっているのだから、お客さんが減るのは当たり前だ」と。お客さんが求めるものではなく、自分たちがやりたいことをやってお客さんを増やしていこう、となったらしいんですね。それでワークショップをやったり、オリザさんが演劇論の本を書いたりしてじわじわと理解者を育て、その後「現代口語演劇」は小劇場の大きなムーブメントになっていった。こうした発想は日本映画界にはなかなかなかったし、今もないことだと思うんです。

古舘

今の映画業界で一番お金を儲けている人たちは、はっきりと「お客さんに合わせて作品をつくる」と、自信満々に言いますもんね。こっちとしてはどうしても、「うーん……」と思ってしまうけれども。

古舘 画像

深田

見方を変えれば、それはそれで正しいのだと思いますが、オリジナルをつくるということを考えると、僕は青年団のやり方に触発されたし、さらに若手の、それこそ松井周さんといった人たちが“中小企業の社長”のように演劇をつくっていることに刺激を受けてきました。
自主映画の世界だと、作ったことの後はまるで考えない場当たり的な人も多いんです。それに対して小劇場の人たちは、サンプルにしても東京デスロックにしても青☆組にしても、継続してやりたいことができるよう次に繋げていく方法を、きちんと確立していた。それはインディペンデント映画の世界に欠けていた発想で、20代の時にそれらに触れられたのはとてもよい経験でした。

古舘

今回の『ブリッジ』で、サンプルは2007年『シフト』以来の10年の歴史に一区切りを打ちますが、そういってもらえると本当に嬉しいです。ずっと観て来てもらっていますけど、お気に入りの一本はありますか?

深田

好きな作品はなかなか選べないほど多くて……2009年の『伝記』はめちゃくちゃ偏愛しています。

古舘

あれは衝撃を受けたという人が多かったですね。瀬々敬久監督からも絶賛の感想をいただいたのを覚えています。思いもよらない役者さんから、ものすごい感動しましたといった声が届いたり、みんな面白がってくれましたね。

深田

面白かったですよね、こまばアゴラ劇場を横長に使うから、とても撮影しづらかったですけど(笑)。他にも好きな作品ばかりですが、今回の『ブリッジ』のような宗教劇というと、2006年にサンプルとして劇団になる直前に初演された『地下室』が、「ヤバい!」と震えました。本当にリミッターが外れていたというか。『ブリッジ』も新興宗教ものと聞いていますので、楽しみにしています。

古舘

ありがとうございます、期待していてください!

構成・文:宮田文久
写真:高野由香里